【レポート】京都新祝祭管弦楽団のプラハ公演は、いかにして実現したか

2019年3月29日、当団は初となる海外公演「京都新祝祭管弦楽団 復興支援 in プラハ」を開催しました。

そもそもなぜ海外公演に取り組もうと思ったのか、そしてどのように実現にこぎつけ、どのような公演をおこない、その結果として何を得たのか──このレポートでは、プラハ公演の一部始終をご紹介します。

目次

京都新祝祭管弦楽団、初の海外公演に挑戦。そのきっかけは?

私たち京都新祝祭管弦楽団は、設立以来現在に至るまで、東日本大震災の復興支援コンサートを継続して開催してきました。

最初の復興支援コンサートから5年の節目を迎えた2018年、復興支援のための新作を、国際的にも名高い邦人作曲家の十河陽一氏に書き下ろしていただく機会に恵まれました。タイトルは「鏡凪」(かがみなぎ)。日本のトランペット界をリードし続けている北村源三のソロをフィーチャーした作品です。

京都での日本初演を前に、作曲家の十河氏から、作品への想いを聞く機会がありました。

凪、つまり風の止んだ海が、鏡のように見えるところに
夕日・朝日・青空が映る、そういうイメージ。
もちろん東北が基本だけれども、我々にも通じるイメージなのではないかな。

(大災害を通じて)人間の心というものが明らかになってくる。
悲しみ、喜び、尊厳……
そういうものを表現したい。
そして最終的にはやはり、祈りや希望なのだと思います。

自身の新作「鏡凪」について、作曲家・十河陽一談

一つの作品を通して、音楽そのものについて語るかのような十河氏の言葉に、私たちは感銘を受けました。そして、「この作品を、なるべくたくさんの人に聴いてもらいたい」と思うようになりました。人間の持つ感情や尊厳のすばらしさを、どんなときにも希望や祈りが残ることを、そして、音楽のたしかに力を持っていることを、もっと多くの人々に知ってほしいと強く願ったのです。

そこで私たちは「鏡凪」を携え、勇気を持って世界に飛び出すことに決めました。

コンサートの開催地としてプラハを選んだ理由

公演会場には、チェコ・プラハにあるスメタナホールを選びました。

コンサートの開催地としてプラハを選んだ理由、その1つめは「だれもが知る国際音楽都市であること」。2つめは「私たちが本拠地とする京都市の姉妹都市であること」です。

そして3つめに、当団メンバーとのつながりがきっかけで、プラハ交響楽団など現地で活躍するプロ奏者たちとの共演の可能性が持ち上がってきたことが、プラハでの公演開催をあとおししてくれました。

国籍の違いを超えて、復興への願いを表現したい。言葉や文化が違っても、分かりあえることを確かめたい。

そんな目標ができたのです。

立ちはだかる費用の壁

オーケストラ公演を開催するということは、国内公演であっても大変なことです。私たちはいつも、多くの方々に助けられて演奏会を開いてきました。

それが海外公演となると、実現に向けてのハードルはさらに高くなります。自分たちだけで費用を賄えない部分も大きく、皆さまのご厚意に頼ることになりました。

まずは、日本での公演開催時に賛助募金活動をおこないました。普段から応援してくださっている皆さまから、あたたかいご支援をいただきました。開催に向けて、希望が湧いてきました。

クラウドファンディングに初挑戦!

なんとか開催にこぎつけようと、クラウドファンディングにも初めて挑戦しました。

「CAMPFIRE」上のプロジェクトページ:【願いを世界へ!】復興への思いが込められた邦人作品を音楽の街プラハで演奏したい!

何もわからないところからのスタートでしたが、客演ソリストの方々にも大いにご協力いただき、いろいろなリターンをご用意することができました。

団として初めての動画制作

オリジナルグッズ(ワイン)の制作

そして、「オーケストラ共演」のリターンは、「Thanks Concert」として結実しました。

クラウドファンディングプロジェクトには、59名の方々より1,516,000円ものご支援と、たくさんの温かいメッセージが寄せられました。クラウドファンディング以外の場でいただいたご寄付を合わせると、63名の方々より1,604,000円ものご厚志を賜りました。

さらにクラウドファンディング期間中、在チェコ共和国日本国大使館からの後援もいただけることに。多くの方々のお力添えにより、プラハでの演奏会を無事に開催できる目処が立ちました!

多くの方々のご支援を受け、プラハへ

そして2019年3月、ついにプラハに渡航しました。なんて美しい街並みでしょうか。歴史を感じるこの街で、これから演奏する。緊張感とワクワクが高まります。

表敬訪問

プラハ市への表敬訪問をおこないました。

リハーサル

市内の教育施設を借りて、リハーサル。本番に向けて気合が入ります。こちらは休憩中の一コマ。

ポスター発見!

市内で自分たちの公演のポスターを見つけました! とても嬉しい瞬間です。

ついに、公演当日

そして、あっという間に公演当日を迎えました。

本番会場に入り、最終リハーサルをこなし……徐々に緊張感が高まってきます。

会場は満員御礼!

ついに開演時間。ホールの舞台に上がってみると、そこには本当にたくさんのお客様が! なんと、スメタナホールがほぼ満員になっていました。

公演概要

本公演のプログラムは、以下のとおりです。

日時:2019年3月29日(金)午後7時30分開演
会場:チェコ共和国 プラハ市民会館 スメタナホール

指揮:湯浅篤史
ピアノ:塩見亮
トランペット:北村源三
ソプラノ:小玉洋子

[プログラム]
リスト / ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調 S.124/R.455
十河陽一 /「鏡凪」(かがみなぎ)〜独奏トランペットを伴うオーケストラのための~(2018)-京都新祝祭管弦楽団委嘱作品―
マーラー / 交響曲第4番 ト長調

リストのピアノ協奏曲第1番、十河陽一「鏡凪」、マーラーの交響曲第4番に引き続き、アンコールにはカッチーニ作曲の「Ave Maria」を、トランペットソロに北村源三氏を再びお迎えして演奏しました。

スタンディングオベーションも!

最後の余韻が消えたあと、お客様からはたくさんのブラボーとスタンディングオベーションをいただきました。団員皆にとって、本当に嬉しく、忘れがたい経験となりました。

公演を経て集まった義援金

今回のプラハでの演奏会においても、ホールロビーにて復興支援のための募金活動をおこないました。東日本大震災についてのパネル展示を実施し、演奏の合間にも現地の言葉でお客様に震災のことを伝えました。多くの方々に被害の実態と、復興に向けた動きを知っていただけたと思います。

ご来聴の皆様からいただいた義援金は、日本円に換算して174,239円となりました。チェココルナ、ハンガリーフォリント、ユーロ、日本円と4種類もの通貨で義援金が集まったことに、国境や文化を越えた温かいお気持ちを感じました。

こちらの義援金は「公益財団法人 音楽の力による復興センター・東北」様を通じて被災地の復興支援に役立てていただきます。

公演を終えて──団としての成長

今回のプラハ公演を経て、オーケストラとしての成長を感じました。おもに以下に挙げる、3つの側面での成長です。

音楽面での成長

世界に誇る音楽都市・プラハで、しかもスメタナホールでの演奏を通じて、オーケストラとして一回り大きくなれたと思っています。

特に、現地メンバーとして共演いただいたプラハ交響楽団・チェコフィルアカデミーの方々との交流は非常に有意義でした。短い滞在期間のうちに、西洋音楽に取り組む上で大切なエッセンスをたくさん教えていただきました。これを持ち帰り、今後の演奏に活かしていきたいと思います。

コミュニケーションの深まり・広がり

今回の取り組みは、「初の海外公演」であると同時に、「初の演奏旅行」でした。これほど長期にわたって、団のメンバーどうしが行動を共にするのは初めてでした。互いに今まで知らなかった側面を知り、理解し合うための良い機会となりました。この経験が、音楽にもプラスの影響を与えることでしょう。

また、現地メンバーと交わしたコミュニケーションも、私たちにとって宝物になりました。音楽を通じて相互理解が深まってゆくことをひしひしと感じる日々。言葉が通じなくても、音楽ならわかり合える、そんな基本的なことを改めて実感しました。

新たなスキル・経験の獲得

今回の公演を通じて、海外公演の運営はもちろん、クラウドファンディングの実施、オリジナルグッズの制作など、新しくいろいろなことができるようになりました。

今後も「新しいことへの挑戦」を積み重ね、常に進化しつづけるオーケストラでありたい。今回のプラハ公演を通して、心からそう思えるようになりました。

今後に向けて

今回のプラハ公演を準備する中で、「東北にも演奏に訪れてほしい」という声をいただきました。私たちとしても、復興支援に取り組む上で、一度は東北演奏旅行を実現したいという想いを抱き続けておりました。

プラハ公演を終え、団としての力を付けた今、東北演奏旅行プロジェクトを立ち上げようとしています。皆さまに良いご報告ができますよう今後とも努力してまいりますので、どうぞあたたかく見守っていただければ幸いです。

(※新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当プロジェクトは一時中断しております。感染症に打ち勝ち、プロジェクトを再開できる日の到来を願ってやみません)

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